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父の。 [遠距離介護]

父親の主治医に呼ばれるのは何度目だろうか。
先日電話をもらったときには かなり実はマズかったらしい。
父親の血圧は最低度に下がり、危篤レベルに行ったためにいただいた℡だったようだ。

そして今回、先生のカンファレンス予定より一日早く、息子の秋休みを利用して帰省。
父親の病室に入る。
父は

両手に拘束手袋をはめられていた。
その手袋のまま手を挙げて挨拶。
ますます、痩せましたなぁ。
うなづいて、うっすら笑う、父。

傍らには複数のバイタル。
大腿部から伸びる幾本ものチューブ。

ワタシは質問しなかったが
病室に入ったのを見て取ると、看護師がとてもすまなそうに

「・・・ごめんね、お父さん、夕べチューブ抜いちゃったものだから・・・。」

入れ替わり立ち代り入る看護師は
複数のバイタルと点滴のチューブを前に

「どれがどれやらさっぱりだわねーー」 と 身内が聴いたらそれヤバいんじゃないの? という発言を
幾度もかましていた。(あ・・・ワタシが身内か)

父は少し哀しそうな表情で 手袋を嵌められた両手を私の前に差し出す。

「・・・どっか辛いとこ、ある?」
大腿部を指差す父。

父がどこか痛い、というのを今日、初めて聴く。後で主治医の先生に話してみよう。
父は

ワタシの左手を弱々しく引っ張り 何か言いたげ。

「俺は・・・・・もうすぐ・・・・#$〇☆・・・・仕方ねぇな・・・・・。」
半分しかない舌が、只でさえやせさらばえた喉元で、ひっかかって聞き取れない。

「なに? 解かんないよ。書いて、ペン渡すから。」

・・・と云っても、拘束手袋の前になすすべなし。
父はただ、黙って力の無い目で 手袋とワタシを交互に見ている。
そのうちに両手を胸の前で合わせた。・・・

突然、父の言いたいいろんなことが一度に頭の中で 「解って」 しまい、
息子が隣に居るのに、呆然と、しばらく固まってしまって困った。
駄目です。ワタシの準備がまだ出来てません。

「・・・何云ってるかなー。困るよもぅ。まだそんなにクリアな頭脳(アタマ)で、
まだまだ・・・もったいないでしょう」(笑)

笑ってしまった。
笑うしか無いというときも、あるのだと思う。
我ながらこのシチュエーションでKYの極致だな、と思った。・・・
そうして動かない空気を飲み込んだ後、ワタシも黙ってしまった。
モノを喋れないひとの前で沈黙は良くない、と知っていつつも、次の話題が出てこない。

このまま沈黙が続くと色々困ってしまいそうだ。・・・ええと。

「あ、家の屋根の話、したっけ?」

父がずっと心配していた、実家の屋根の融雪。
心配して訪ねてくれた業者さんが
冬の間中、スイッチの面倒を見てくれる事になったのだ(無償)
「これで、何も心配いらないねぇ」

否、違うちがう。そうじゃなくて。こーいうとき、いったい何を話したら
ヒトは希望を持つの?

「詰めろ」のかかった将棋指しみたいに 心の中でうんうんうなりつつ
次の一手を探すワタクシ。心に脂汗。(カオはヘラヘラ笑ってるのにぃ)
 
と、タイミングを見計らったように主治医のH先生が病室を覗いた。

「やあ、今日おいでになってたんですね」(笑顔)

・・・今日、良ければこのままカンファレンスに入れるか、とのことで、了解して
息子と別室へ。
息子は当初、一緒にいる、と云ったのだが、なにやら微妙な空気を察したのか、
ボク、おじいちゃんの病室に戻る、と出て行ってしまった。

先生のお話によれば、先日の「非常にヤバい状態」、は脱したそうだ。
「まだ安心はできないのですが。」
前置きの元、
ヴん、とスイッチがうなった表示板のCTの画像を覗くと、先生が

「この白い影ね」
水が溜まっている影、と 肺が炎症を起こしている影。
そして
「コレが腹水、ですね」 くっきりと下腹に。

・・・そうか。もう、こんなになってしまっているのか。父の体。

「・・・肺の様子を見ながら、今投与している薬が効けば少しは・・・・。」
一通り、説明してもらう。
「それにしても、全身状態が良くないのです。」
つまりは多臓器不全、ということだ。

「・・・なにか他に話しておきたい事や、聞いておきたい事はありますか?」

・・・食べさせてあげてください、とお願いしようと思ったのだが、・・・
今の段階で、もしも少しでも現状からの回復を見据えたならば
あまりにリスキーなお願い、であることは承知していたし、
黙って考え込んでいると

「・・・食事のほうはね、お父さん、どんな状態でも食べる『意志』 は持っていらっしゃるので・・」

そう、そーなんですよ。「食べたい、食べたい」っていつも云ってます。

「様子を見ながら早い目に食事のほうも与えてあげたいと思っています。」
と先生。

え、食べれるようになるの???
ほんとに?

この時はホントに驚いたし、嬉しかったのだ。

少しだけ希望を持てたように思った。
どんなにちっぽけでも、現状よりはマシなら、それは「希望」に違いない。

病室に戻ると、看護師さんが気を利かせてくれたのか
手袋がはずされていた。

父はあんぐりと口を開けて、眠っていたようだ。
枕の中に落ちてしまってる人、みたい。
片方の目が半分開いている。息子が

「おじいちゃん、半分起きてんのかな」 とうっすら笑った。
白いボードに、

「土曜日、また来るね」

と息子が メモを書いた。


DSC_0480.JPG


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コメント 4

ryang

お父様、ミトンを装着されたんですね。

入っているものによっては命に関わるものなので
安全確保というところでやはり必要...だけど家族が来たとたんに
外してほしいですね~。抑制された患者さん本人を見て
家族がどう思うか。倫理的な配慮をしてほしいですねぇ。
きっと「そばにいる間は外して。」と言ったら外してくれます。
外してる間抜かないようにちゃんと見てますから。って。

しばらくぶりに食べるもの、アイスクリームなんか
飲み込む前に溶けやすくて良いですよ(^^
by ryang (2012-10-17 22:16) 

cassis

●ryang さま ありがとうございます^-^。

あれ、ミトン、なんですね。確かに形がそうでした。
単に押すだけ、のロックが解らなくて、力任せに引っ張ったりして。

健常者でも、(たとえばアタシみたいな) ・・・寝相のよいヒトなどは
つい、うっかりブチッ、っとやってしまいそうなものだ、と
思っていましたので
ワタシ自身は「仕方ないなぁ~」 と思ってはいたのですが
・・・すっごく看護師さんが気にしてくれていて・・・。
いつも連絡せずに病室を訪ねるものだから。

なんかね、この際も、父に
「何か飲み物が欲しいなぁ」と こっそり云われたのだけど
さすがにベッドに、『絶食』 の札があると・・・・
「ガマンして」 って 諦めさせてしまいました。

有り難う。
アイスクリーム、っていう手も、ありましたね(^.^)
by cassis (2012-10-17 22:56) 

olegon

きっと・・・ワタスも・・・
KYに走っています。。。

by olegon (2012-10-18 00:07) 

cassis

●olegon さま ありがとうございます^-^。

ご同調、感謝です。
それらしく、ふさわしく動けるヒトなんて、
なかなか居ないんですねー。
・・・「台本」があればなぁ、とつくづく思います。
大人になるほど、色んなシーンに対応しきれない自分を
再発見して、実際、情けないです・・・。
by cassis (2012-10-18 00:37) 

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